相続で遺産分割がもめてしまう理由
相続が始まると、遺産分割協議が必要となりますが、相続人間での意見対立は避けられないことも多いです。問題が複雑化すると、時間、手間、精神的ストレスも増えるため、事前に予防策を講じておくことが大切です。
ここでは、相続トラブルの発生原因についてご紹介します。人それぞれの状況や相続にまつわる問題は多種多様ですが、典型的なトラブル例を参考に、自身が将来関与する可能性のある相続でのリスクを事前に確認してみてください。リスクをしっかりと把握し、事前にきちんとした対策をすることで、相続による紛争を最小限に抑えることができます。
目次
遺産が少ないからもめる?
裁判所で取り扱われる遺産分割関連の事件件数において、遺産価額が5,000万円以下のケースが全体の約4割を占めています。特に注目すべきは、遺産価額が1,000万円以下のケースが全体の約3割も占めている点です。これを考慮すると、遺産の金額が少ない場合でもトラブルが起きる傾向があると言えます。単に遺産が多いから揉めやすいというわけではないことがわかります。
この背景として、資産家である被相続人の多くは、多額の遺産が発生することを事前に見越して、早めに相続対策を施していることが考えられます。その結果、相続がスムーズに進行し、トラブルが起きることは少ないでしょう。
一方で、遺産が少ないと思って何も対策を講じていない場合、いざ相続が開始した時に、どのような財産があるのかもよくわからず、準備が不十分な相続人が混乱する可能性があり、それがトラブルにつながることも少なくありません。
財産が多い少ないに関係なく、相続に関する会話は、できる限り相続が開始する前に行っておくことが望ましいです。普段から遺産相続に対する意見や考えを共有しておけば、いざ相続が始まった後でも感情的な対立がトラブルにエスカレートするリスクを低減できます。
家族が亡くなることについて事前に話すことには抵抗を感じる人もいるでしょう。しかし、相続でトラブルが起きた場合、その影響は多くの面でデメリットになります。だからこそ、相続が始まる前にできる限りの準備と話し合いをしておくべきです。
よくある遺産分割でもめる原因
ここでは、遺産分割がもめてしまう原因のいくつかをご紹介します。
不動産がある場合
遺産には、簡単に分割できるものばかりではなく、分割が難しい資産も含まれます。特に不動産のような資産は、平等な分割が難しく、特に土地や家屋など主要な資産について誰が相続するかでトラブルが起こりやすいです。現預金など容易に分割できる財産の場合は、相続人間で平等に分配することが可能ですが、不動産のように分割が困難な資産では、不動産を相続する人の相続額が大きくなりがちです。その結果、他の相続人との間で不公平感が生まれ、代償金を支払う資力がない場合、トラブルが頻発する可能性が高いです。
また、不動産の評価方法に関する合意が得られない場合、それが遺産分割方法の決定を遅らせる要因となります。その結果、相続登記も行えずに長期間放置されるケースも少なくありません。
実際のところ、遺産として不動産がかなりの比重を占めている相続は少なくありません。不動産が相続の対象になる場合には、あらかじめ誰が引き継ぐのか、あるいは売却するのかなどを話しあっておくことが重要になります。
また、相続した土地や建物が遠隔地に位置していたり、売却が困難で買い手が見つからない場合、誰も相続を希望しないこともあります。被相続人が遺す唯一の遺産が不動産で、誰も引き継いで利用する予定がなくその固定資産税や維持費が重い負担になる場合、相続人全員で相続放棄を検討することも一つの選択肢です。
生前贈与等の不公平感
生前に特定の相続人が贈与を受けていた場合、その事実はしばしば相続トラブルの原因となります。生前贈与を受けなかった相続人が不満を抱くことが多く、それが後の遺産分割で問題となるケースが少なくありません。生前贈与がなかった場合、その分相続財産が増加していたはずです。このため、生前贈与を受けていない相続人が不満を感じ、紛争の原因となることがあります。
生前贈与を受けた相続人は「特別受益」としてその額が遺産から差し引かれる可能性があります。この処理を「特別受益の持ち戻し計算」と言います。ただし、被相続人が特別受益の持ち戻しを免除していた場合、この計算は行われません。また、持ち戻し計算を適用する際には、差し引く具体的な額を明確にする必要があります。これについて意見が合わないと、相続問題が複雑化することが多いです。贈与の形態や時期、金額等をどう評価するかによって、持ち戻しにかかる金額も変動するため、これが明確でないと不公平感が生じやすいです。
相続人が多い場合・相続人が互いに仲が悪い場合や疎遠である
相続人が多いと、その分利害関係者も多く、トラブルが起こりやすくなります。すべての相続人の合意が必要な遺産分割協議では、人数が多いほど一致した合意に至るのは難しくなります。
相続人の数が多かったり、複雑な家庭状況がある場合、例えば前妻との子どもと再婚後の妻と子どもがいるケース、代襲相続が発生しているケースなど、相続人同士の関係性が元々複雑または遠縁である場合、どうしても遺産分割協議がスムーズに進まないケースが多くなるように思われます。このような状況では、相続人がお互いのことをほとんど知ラズ過去の経緯も把握していないため、各自の権利を主張する傾向が強く、その結果、遺産分割協議がスムーズに進まず、トラブルが発生するケースが多くなりがちです。既存の緊張した関係や不明確な関係性が、遺産分割においても悪影響を及ぼすことが多いのです。
また、相続人間の関係が元々悪かったり、長い間疎遠であったりすると、トラブルが起きやすい傾向にあります。例えば、仲が悪いまたは疎遠な兄弟が親の死後に遺産を巡って対立するケースがよくあります。もともとの関係が悪かったり疎遠だった場合、相続においても意見が合わなくてトラブルに発展する可能性が高いのでしょう。さらに、これまで仲が良かった兄弟でも、相続が始まるとこれまで一切なかった類の利害関係が生じ、うまく対応できずにトラブルになることもあります。
親の介護や面倒を見ていた相続人がいる場合
特定の相続人が親の世話を主にしていた場合、その人が多くの遺産を相続するべきだと考える可能性があり、これが他の相続人との間で不満や対立を生むこともあります。親の介護をしてきた子と介護をしなかった子など、相続人の間で衝突するケースがよくあります。
民法では、「家業を無償でサポートしていた」や「長期の療養介護を担当した」など、被相続人の財産を特別に増やしたり維持したりした相続人に対し、通常の法定相続分以上の財産を相続させることができる「寄与分」という制度が存在します。しかし、同居している親子間では、歳を取った親の面倒を見ることは、法律上当然とされています。その上、被相続人への具体的な貢献は数値で簡単に示せないことも多く、この「寄与分」の評価や計算方法について相続人同士での合意が取りづらい状況がしばしば見られます。
また、親の介護をしながら財産を管理していた相続人がいる場合、その人が財産の詳細を公開しなかったり、不正な使用が疑われたりすることがあり、トラブルに発展してしまうケースもあります。
遺言が原因となる場合
遺言書は、基本的に相続トラブルを防ぐのにとても有効ではありますが、その内容が不明確だったり、特定の法定相続人だけに財産を渡すといった指定があると、逆に紛争の原因となることがあります。例えば、遺言書によって一部の法定相続人が遺産分配から除外された場合、その人たちは不満を持ち、紛争が起こる可能性があります。また、遺言書の内容やその効力について、相続人間で意見が分かれて裁判になるケースもあります。
自筆証書遺言がトラブルの原因になる場合もあります。自筆証書遺言は便利で簡単に作成できる一方で、その手軽さが裏目に出るケースも少なくありません。遺言の要式が間違っている、あるいは内容が不明確であると、遺言は無効とされるか、その効果が認められない可能性があります。これが引き起こす混乱は、相続人間の関係をさらに悪化させることもあります。さらに、自筆証書遺言は改竄や偽造が比較的容易であり、これが原因で相続人間での紛争が発生するリスクがあります。たとえば、「この遺言書は本物ではないのでは?」といった疑念が浮上し、その結果として裁判にまで発展するケースも考えられます。
自筆証書遺言ではなく公正証書遺言の場合、公証人および証人がその作成過程に関与します。これにより、遺言内容が明確かつ正確に記録されるだけでなく、後の偽造や改竄のリスクも大幅に低減します。公証人は遺言者の意志がしっかりと反映されているかどうかも確認する役割を果たし、その場で法的な疑問点や曖昧さをクリアにできるため、後で生じるトラブルを最小限に抑えることができます。そのため、信頼性や安全性を考慮すると、公正証書遺言は自筆証書遺言よりも優れていると言えるでしょう。
まとめ
相続には、不動産、生前贈与、相続人の多様性、親の介護というような様々な要素が複雑に絡み合い、予想以上に高いトラブルのリスクをはらんでいます。解決の鍵は、事前の準備とコミュニケーションにあります。具体的な法的手続きや専門家の助言を求めることはもちろん、家族間でのオープンな話し合いも重要です。公正証書遺言という手段も考慮に入れ、その形式が提供する法的保障と明確性を活用することで、後に発生する可能性のあるトラブルを最小限に抑えることができます。
相続は避けられないライフイベントであり、その準備と対策に時間と労力を投資することは、未来の自分と家族のために非常に価値のある行為です。ここで述べたよくあるトラブル原因を参考に、自身が将来関与する可能性のある相続でのリスクを事前に確認してみてください。リスクをしっかりと把握し、事前にきちんとした対策をすることで、相続による紛争を最小限に抑えることができます。
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