法定相続分の移り変わり
遺産分割を行う際、民法により定められた法定相続分が基準となります。法定相続人や法定相続分の理解が深まれば、分割協議がスムーズに進行します。
法定相続分は相続開始時の法律の内容に基づくため、時期によって異なることがあります。現在の法律では、第1順位相続人の法定相続分は配偶者が2分の1、子が2分の1とされていますが、古い相続手続きの場合、当時の法律が適用されることもあり、これとは異なる可能性があります。
例えば、現在の相続では、非嫡出子は嫡出子と同じ相続分を受けることができます。嫡出子と非嫡出子とで差異はありません。しかしながら、この規定は比較的新しく、平成25年の法改正によって初めて非嫡出子が嫡出子と同じ相続分となるように扱われるようになったものです。法改正以前は、非嫡出子は嫡出子の2分の1の相続分しかありませんでした。
本記事では、このような法定相続分についてのルールの変遷をご紹介していきます。法定相続分に関するルールは、戦後何度か大きく変更されてきました。結果として死亡時期がどの区分に該当するかによって、相続人や相続分が異なることがあります。相続登記などの手続きをするのが現時点であっても、相続開始日(被相続人が亡くなられた日)のルールで手続きをすることになりますので、特に法定相続分で遺産分割や相続登記などの手続きをする場合には、注意が必要です。
目次
そもそも法定相続分とは
法定相続分は民法で定められた相続の割合で、相続人と故人との関係に基づいて計算されます。なお、相続人同士で合意があれば、法定相続分に固執する必要はありません。別の割合や方法での分割も可能です。また、遺言書を通じて、法定相続分と異なる割合や方法での相続を指定することもできます。もし、遺産分割において争いが起き、協議や調停で解決できなかった場合、審判に進んだ際には裁判官が法定相続分を基準にして遺産を分割することになります。
昭和22年5月3日~同22年12月31日の間に死亡した場合の法定相続分(応急措置法)
戦後、日本国憲法が制定されるにあたり、個人の尊厳と男女の本質的平等を基本に据える必要が生じました。この理念に基づいて、相続制度も家督相続から財産相続への全面的な見直しが求められました。しかし、改正作業が日本国憲法の施行に間に合わなかったため、民法の中で個人の尊厳と両性の本質的平等に反する部分を応急的に廃止するための法律として、「日本国憲法の施行に伴う民法の応急的措置に関する法律」(昭和22年法律第74号)が昭和22年4月に成立しました。施行日は昭和22年5月3日となります。
法定相続分は次のとおりです。なお、兄弟姉妹の代襲相続は認めらていませんでした。
- 配偶者と第1順位の場合:配偶者3分の1 直径卑属3分の2
- 配偶者と第2順位の場合:配偶者2分の1 直系尊属2分の1
- 配偶者と第3順位の場合:配偶者3分の2 兄弟姉妹3分の1
昭和23年1月1日~昭和37年6月30日の間に死亡した場合の法定相続分(新民法)
昭和22年12月に「民法の一部を改正する法律」(昭和22年法律第222号)が成立し、家督相続制度の廃止や配偶者の相続権の確立などが行われました。現在使われている民法の始まりです。しかし、十分な検討の時間がなかったことから、憲法に抵触しない部分では明治民法の規定がそのまま承継される形となりました。このため、衆議院司法委員会では、「本法は、可及的速やかに、将来において更に改正する必要があることを認める。」との附帯決議が行われました。
法定相続分は次のとおりです。兄弟姉妹の代襲相続が制限なく認められることになりました。 また、第3順位の兄弟姉妹の相続について、父母の一方を同じくする兄弟姉妹(半血の兄弟姉妹)の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹(全血の兄弟姉妹)の相続分の2分の1となりました。
- 配偶者と第1順位の場合:配偶者3分の1 直径卑属3分の2
- 配偶者と第2順位の場合:配偶者2分の1 直系尊属2分の1
- 配偶者と第3順位の場合:配偶者3分の2 兄弟姉妹3分の1
昭和56年1月1日以降に死亡した場合の法定相続分(昭和55年改正)
昭和55年に、民法および家事審判法に関する一部の改正が行われ、「民法及び家事審判法の一部を改正する法律」(昭和55年法律第51号)が成立しました。施行日は昭和56年1月1日となります。現在使われている相続ルールの内容に近いものになっています。
法定相続分は次のとおりです。配偶者の相続分の引き上げがなされ、兄弟姉妹の代襲相続は「その子まで」に制限されました。
- 配偶者と第1順位の場合:配偶者2分の1 直径卑属2分の1
- 配偶者と第2順位の場合:配偶者3分の2 直系尊属3分の1
- 配偶者と第3順位の場合:配偶者4分の3 兄弟姉妹4分の1
平成25年改正
平成25年9月4日に、最高裁判所大法廷は、民法において嫡出でない子の相続分を嫡出子の2分の1とする規定が違憲であるとの判断を下しました。その結果、同規定を削除する改正を行う「民法の一部を改正する法律」(平成25年法律第94号)が成立しました。
これにより、平成25年9月5日以後に開始した相続について、嫡出子と非嫡出子の相続分が同等になりました。また、平成13年7月1日以後に開始した相続についても、遺産分割が終了していない相続については嫡出子と非嫡出子の相続分が同等になりました。
旧民法の相続(明治31年7月16日~昭和22年5月2日)
参考までに、戦前の旧民法の相続についてもご紹介しておきます。
戦前の日本では、原則的に「家を継ぐ」のは1人で、他の家族は財産を引き継ぐことができませんでした。家を子孫のうちの1人が継いでいくシステムは「家督相続」と呼ばれ、法律で定められていました。家督相続とは、原則として長男がすべての財産を相続する旧民法の制度です。「戸主」が死亡したり隠居したりすると、長男がすべての財産を相続して「戸主」となります。その「戸主」が死亡したり隠居したりすると、次の長男がすべての財産を相続します。そのため、配偶者や次男、長女、次女、兄弟姉妹など、長男でない人は基本的に相続できない制度です。
「家督相続」はあくまで戦前の制度であり、昭和22年の日本国憲法の制定に伴い、この制度は廃止されることとなりました。ただし、家督制度の急激な廃止による混乱を防ぐため、昭和22年の段階では暫定措置が設けられていました。その後、昭和23年の民法改正により、家督相続制度は正式に廃止され、個人の尊厳と男女の平等を基礎とした財産相続へと移行しました。
まとめ
家督相続から現代の相続法への変遷は複雑で、専門的な知識と経験が必要な場合が多いのが現状です。特に、過去の未了の相続問題や特定の相続人への財産分配など、細かい法的手続きが求められる場合は、慎重な対応が必要となることが一般的です。
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